2024年12月からスタートし、2025年2月末まで行われたSAGOJOスクールの『ミカン王国 WAKAYAMA みかんマイスターへの道 〜入門編〜』。和歌山県 紀の川市を舞台に、1週間の援農プロジェクトが毎週開催されました。みかんはもちろんのこと、「フルーツ王国」とも呼ばれる紀の川市では、多くの果物が栽培されています。野菜やお米などあらゆる作物が栽培可能な全国的にも珍しい地域です。農家さんの農作業をお手伝いする「援農」を通じ、農業と地域の理解を深めた1週間をご紹介します。みかんマイスターを目指す道のり今回は2025年1月20日〜26日の第6期に参加した筆者の体験記になります。定員いっぱいの6名の参加者が集い、賑やかな期となりました。【DAY1】紀の川暮らしスタート。参加者、農家さんとのはじめまして初日は紀の川市に集合し、宿舎となるゲストハウスへ。周辺には野菜畑が広がり、静かで美しい風情の中での暮らしが始まります。第6期の参加者は全国各地から集まり、個性豊かなメンバーが揃いました。まずは地元の野菜を使った夕食を囲みながらお互いを知る時間。昼食と夕食は地元の方が作ってくださり、ゲストハウスまで届けてくれます。夕食後は、今回お世話になる「藤井の里くらぶ」の農家さんが訪れての交流会。藤井の里くらぶは紀の川市 粉河 藤井地区の有志の農家団体です。自己紹介をしあい、お酒を楽しみながらそれぞれの話に花が咲きます。翌日からの予定を決めて初日は終了です。【DAY2-3】みかんの剪定をおてつだいしながら紀の川市を知る援農初日と2日目は、藤井の里くらぶの会長・川原 章秀(かわはら あきひで)さんのもとで作業をお手伝いしました。川原さんが剪定した枝を細かく切り刻み、土に還りやすくします。温州みかんの収穫は昨年末に終わり、年明けにシーズンを迎える柑橘の収穫の合間に剪定作業を行います。「藤井の里くらぶ」現会長の川原さんは、紀の川市の未来を見据え、この地域をどのように維持していくかについて強い想いを持っています。農業に従事していなくても構わないので、とにかく紀の川市に関わる人が増え、地域の担い手や協力者が増えてくれたらありがたいとのこと。「人口は高齢化が進み、若い世代が地域を離れることで減少している。だからこそ、住みやすいまちづくりや、地域を受け入れる仕組みをもっと意識していく必要がある。そのためには、情報発信が鍵になるのではないか」と川原さんは語ります。また、「今回の『みかんマイスター』で訪れた人たちと出会えたことで、彼らがそれぞれの場所で紀の川市の魅力を発信してくれるはず。それが地域にとって大きな力になるのではないか」と期待を寄せています。少しずつでも、紀の川市を盛り上げ支えていく人が増えてほしいーー。そんな思いを込めて、お話ししてくださいました。【DAY4】「菌ちゃん農法」の畝づくりを体験援農3日目は、熱川 健二(にえがわ けんじ)さんの畑で、参加者全員が協力して野菜の畝づくりに取り組みました。熱川さんは「菌ちゃん農法」と呼ばれる栽培方法に魅了されており、木やもみ殻などの有機物を発酵させ、菌類の力を活用するこの手法を積極的に取り入れています。この農法は、株式会社菌ちゃんふぁーむの吉田 俊道さんが提唱したことから「菌ちゃん農法」と名付けられました。作業を始める前には、熱川さん自らが菌ちゃん農法の魅力について熱く語り、その考え方や実践方法を参加者に詳しく解説してくださいました。畝づくりは、まず区画の測定からスタート。続いて耕運機で土を耕し、高い畝になるようスコップを使ってみんなで土を盛り上げていきます。作業の途中では、菌類の住処となる木の枝やもみ殻を混ぜ込み、土壌の環境を整えていきました。この菌ちゃん農法による畝づくりは、さまざまな地域で実証されてきましたが、「ぜひ地元の学生にも科学的な視点を交えて研究してもらえたら嬉しい」と熱川さんは語ります。作業の最後には、完成した畝を囲み、みんなで指さして記念撮影。ここからどんな野菜が育っていくのか、期待が膨らみます。【DAY5-6】柿の剪定をしながら藤井の里くらぶの歴史を知る援農4日目と5日目は、児玉 尋文(こだま ひろふみ)さんのもとで、柿の木の剪定作業をお手伝いしました。児玉さんから剪定のポイントを教わりながら、枝の整理や不要な枝のカットを丁寧に進めていきます。適切な剪定を施すことで、日当たりや風通しが良くなり、より美味しい柿が育つのだそう。参加者も真剣な表情で作業に取り組んでいました。藤井の里くらぶは2020年に発足し、初代会長を務めたのが児玉さんです。発足直後に新型コロナウイルスが流行し、多くの困難に直面しましたが、その中でも紀の川市に人を呼び込むための活動を続けてきました。コロナ禍で人の往来が減る中でも、農協観光のツアーを活用し、毎年観光客を迎え入れるなど、地域の活性化に取り組んできました。こうした厳しい状況の中でも、藤井の里くらぶの皆さんが諦めずに行動し続けた姿勢こそが、今のくらぶの基盤を築いています。ここまで続いてきた藤井の里くらぶは、児玉さんにとって「とてもあったかい存在」なのだとか。農業は時に孤独になりがちですが、藤井の里くらぶの仲間とともに活動することで、楽しく仕事ができていると話してくれました。支え合いながら地域を盛り上げていく、そのつながりこそが、くらぶの大きな魅力なのかもしれません。児玉さんはこれまで、柿・みかん・レモン・芍薬(しゃくやく)を栽培してきましたが、今年から新たに不知火の栽培にも挑戦されています。まさに、紀の川市の特色である多品目栽培を体現する存在です。「一度訪れただけでは分からないことが多いからこそ、年間を通して何度も足を運び、農業の流れを見てもらいたい」と児玉さんは語ります。四季折々の作業を体験しながら、紀の川市の農業の魅力をより深く知ってほしいという想いが込められていました。【DAY7】総括最終日は参加者と農家さんが集まり、1週間の感想を共有しあいます。5日間という援農期間であっても、それぞれがコミュニケーションを取り合い、仲が深まりました。名残惜しさを残しつつ、記念撮影をして解散です。みかんマイスター第6期の声世代・居住地ともにバラエティ豊かな第6期の参加者にお話を伺いました。全員が紀の川市を訪れたのは初めてで、それぞれの視点で1週間を楽しみました。高桑 昌太郎さん愛知県から参加。いろんな場所を巡ってみたくて旅をしているのだとか。農業は今回が初めての体験でした。「はじめての紀の川市でとても楽しかったですし、知らないことを知れたのがよかったです。農業ははじめてでしたが、きつくはなかったですし、収穫時期にも是非来たいです。桃の収穫時期に来て、桃も食べてみたいですね。たくさんの作物を栽培しており、何の木を植えるか考えられるのが紀の川市のすごいところだと感じました」田口 道將さんいろいろなこと・場所を体験したくて岐阜県から参加。りんご・トマトの収穫経験があります。「いろいろなことを知れて知識が深まったことが面白かったです。菌ちゃん農法を知れましたしね。超急斜面のみかん畑はすさまじかったですね。あそこで栽培できたらどこでも作業できそうですし、それを見れたのが一番よかったです」権平 まゆさん北海道から参加。農業に興味はあるものの、自分でやるにはハードルは高く、憧れに近い気持ちをもっているとのこと。「北海道には果樹がないので、果樹の作業を体験できて、知れたことが一番よかったです。今まで生きてきて果物がどのようにできているか知る機会はなかなかなかったので。北海道では冬は除雪の仕事が多く、手が空いている人が農作業をお手伝いする仕組みがあれば、もっと人が来てくれそうだと感じました。ぜひまた紀の川市に来たいです」岩城 光洋さん大阪府から参加。援農の経験は何度もあるものの、今回が久しぶりの機会でした。「紀の川市をはじめて知ることができた期間で、参加者の皆さんとのシェアハウス生活も楽しみました。いろいろな農家さんを回りながら話せたのがよかったですし、まだまだやれることがあるというモチベーションを感じられたのが一番でした。すぐにでもまた紀の川市を訪れたいです」杉浦 良子さん地域活性化を目指す想いに惹かれ、愛知県から参加。地元愛知で地域の高齢者が集えるシェアハウスをつくる夢を持たれています。「援農させていただいて、農家さんの大変さや苦労、後継者不足の悩みが分かりました。何とかしてあげたいという気持ちになりましたし、みかんマイスターのプロジェクトが成功することを願っています。個々の農家さんの生きがいを感じることもできました。ケンちゃん(熱川 健二さん)がすごく気になってしまって。ケンちゃんの世代であれだけ向上心がある人を私の地域では見たことがないですし、ケンちゃんの笑顔が忘れられないです」現地コーディネーターが語るプロジェクトへの想い最後に、みかんマイスターのプロジェクトのコーディネーターを務める二瓶 直樹さんにお話を伺いました。明るいキャラクターで参加者を見守りながら、農家さんと参加者をつなぐ架け橋となっている二瓶さんは、今回のプロジェクトへの深い想いを語ってくれました。ー今回のプロジェクトのきっかけは?農家さんたちのこだわりや生産地である藤井をもっと知ってほしいという強い思いから始まりました。私もその思いに動かされた一人です。この気持ちに共鳴した方々とのつながりが徐々に生まれ、プロジェクトへとつながっていきました。ただどうすればいいのか手段が分からず、日々農作物を生産していました。そこで段階を踏みながらではありますが、いろんな人に来ていただき、知ってもらうために今回の援農プロジェクトにつなげていきました。ー実際にプロジェクトをはじめてみて、いかがでしょうか?プログラムがはじまる前は、6泊7日という期間の長さや参加者のスキルのばらつきに対し、何をしてもらうか悩んでいる様子が見受けられました。しかし、実際にスタートしてみると、参加者がとても素晴らしい方々ばかりで、生産者も遠慮なく仕事をお願いし、積極的に取り組んでもらえました。生産者にとって、短期間で多くの人が訪れることは普通のことではなく、その交流を楽しんでいる様子が伺えました。農作業においても、普段であればこの時期に畑1つ分の剪定しか終わらないところが、今回の援農のおかげで4つ分も終わった農家さんがいます。確実に労働力の支援になっていると実感しています。農家さんたちに現状を知ってもらい、労働力が不足している部分を補うことで、最初はお手伝いを頼むのが難しかった農家さんも、徐々に慣れてきます。もともと閉鎖的なエリアで、人との交流が少ない地域ではありますが、参加者との交流を通じて、手伝ってもらう中で「人に頼んでいいんだ」「頼むとこんなに楽になるんだ」と感じてもらえるようになれば、この援農プロジェクトが目指すべき成果に近づいていくと思います。ーみかんマイスター終了後は、どのような展開を考えていますか?机上で考え始めたことをみかんマイスターという形で進めてきましたが、それが正解なのかはまだ分からない段階です。今回の参加者と農家さんのアンケートをすべて集約し、このプロジェクトが人手を確保するためのモデルケースになれればと思っています。少量多品目で、年中何かしら作業のある紀の川市では、年間を通して数人お手伝いに来てくれるだけでありがたいんです。大規模な地域は収穫期に何十人も人が必要なところもありますが、紀の川市の場合は数人でも助かります。今後、担い手が高齢化することは避けられない状況です。そのため、このエリアに愛着を持ってもらい、長期的な関係を築いていくことが重要だと考えています。何が正解かはまだ分かりませんが、今回の援農プロジェクトを一つのモデルとして、自治体やJAも巻き込みながら横展開を図り、他の地域にも広げていけると良いですね。紀の川市の農業に新しい風を吹き込んだ『ミカン王国 WAKAYAMA みかんマイスターへの道 〜入門編〜』。今後は参加者がひとつのコミュニティとなり、藤井の里くらぶの援農はもちろん、紀の川市を盛り上げてくれることが楽しみです。文:鈴木大翔 / 二瓶直樹写真:RINA ISHIDA / 鈴木大翔